D.S.~ダルセーニョ~のブログ(仮)

自分で勝手に考えたことを色々書いています

アメリカのメディアリテラシー 文字ver

・初めに

 この記事は私が投稿した動画を文字にしてまとめたものです。動画の補足なんかをここに書くかも。

 動画はこちら↓

 以下たぶん動画のまま記載。

・冒頭

 どうも。はじめましての方は、はじめまして。

 今回はアメリカでのメディアリテラシーの取り組みについて、お話ししたいと思います。なお、今から話すことはこちらの書籍(メディア・リテラシー~世界の現場から~)を引用したものなので、20年近く前の取り組みとなります。そこはご了承ください。では始めます。

 アメリカでは1990年代から教育でメディアリテラシーが教えられるようになりましたが、それ以前から、民間団体によるメディアリテラシー普及活動が行われていました。

 そのうちの一つに、チルドレンズ・エクスプレスというのがあります。チルドレンズ・エクスプレスは、1975年に設立されたNPOです。直訳すると、子ども通信社となります。その名の通り、所属しているのは8歳から18歳までのボランティアのジャーナリストです。ジャーナリスト志望の子とかではありません。立派なジャーナリストです。彼らは放課後や夏休みを利用して、取材から執筆・番組作りまでの全てを自分達の手で行い、編集会議には大人は参加しないことになっています。といってもまあ、アドバイスや出来上がった原稿の最終チェックなどには大人が関わりますが。逆に言えば、アドバイスや最終チェック等以外は全て子どもたちが行う事だという事です。最初から最後まで、子どもたちが子供たちの視点でニュースを作り報道するNPO。それがチルドレンズ・エクスプレスだという事です。

 チルドレンズ・エクスプレスはとある弁護士が、社会的弱者である子どもの声を、世の中に届けたいと思って設立したものです。

 実際にチルドレンズ・エクスプレスの子どもジャーナリストたちは、大人顔向けのスクープを連発させて、当時のアメリカ社会では大いに話題になりました。

 いくつか例を挙げますと、1976年に当時のカーター大統領候補が、副大統領にウォルター・モンデールを指名したことを、一番最初にスクープしたこと。

 88年の大統領選挙報道では、当時12歳だったジャーナリストが堕胎に反対する保守派の候補に、

 「自分が父親にレイプされて妊娠した場合は堕胎すべきか」

という激しい質問をして話題になりました。

 94年にはティーンのホームレスの独自取材が賞を獲得しています。

 こうした子供たちのジャーナリズムを高く評価した、チルドレンズ・エクスプレスの代表エリック・グラハム氏は、こんなことを述べています。

 「大人は経験も豊富だが固定観念もある。その点子どもたちはどんな相手にもストレートに質問をぶつけるから、パワフルなコメントを引き出すことができる」

 大人顔向けの凄まじい活躍をしていた子どもジャーナリストたちですが、残念ながら2001年に財政難に陥ったことで活動を停止してしまいました。今はどうなのかはわかりませんが、当時ジャーナリストとして活躍していた子供たちが、どんな人生を歩みどんな大人になっていて、社会に対するどのような役割を担うようになっているのか。凄く興味がわいてきますね。

・メディア・ウォッチドッグ~メディアを監視する番犬~

 その他のアメリカの市民団体の代表的なメディアリテラシー活動として、メディア・ウォッチドッグというのがあります。これは、メディアがしばしば権力を監視するウォッチドッグ、番犬と呼ばれるのに対した、メディアを監視する番犬、という意味の団体です。団体といってもその数は、2000年初頭の時点で全米に100以上あったと言われています。このメディア・ウォッチドッグの活動をいくつかご紹介しましょう。

 まずはコロラド州「ロッキーマウンテン・メディアウォッチ」通称RMMWの活動をご紹介しましょう。RMMWは全米のローカルニュースをチェックして、報告書を作成して世間に公表することをメイン活動とする団体です。日本の放送法遵守を求める視聴者の会の活動に似ていますね。

 RMMWの調査によると、調査を開始した95年以来、ニュースの約三割が殺人などの事件報道に使われていて、他の話題が疎かになっているという調査結果がでました。この背景として、犯罪物は手間や経費をかけなくても、現場に直行するだけでニュースになり、それで視聴率を獲得できるからだと分析されています。そして犯罪ニュースの増加により、犯罪数は減少しているのに治安の悪化を感じる人が増えているという調査結果も報告される始末になっていました。

 これに危機感を抱いたRMMWは、98年に地元のデンバー尾四つのテレビ局が免許更新を申請した際に、連邦通信委員会FCCに、これらのテレビ局は公共の電波を使用するに値しないと主張して、申請の却下を求めました。最終的にRMMWの主張は退けられることになりましたが、彼らの主張に賛同する声は、決して少なくはありませんでした。その一例として、とあるテレビ記者がこんなことを述べていたりします。

 「犯罪が世の中の全てだと思わないためにも、視聴者はニュースの選択基準を知る必要がある」

・フェア~徹底したデータ分析でメディアを監視~

 次にご紹介するのはニューヨークに拠点を置いている、フェアと呼ばれる団体です。フェアはメディアの不均衡を正すための建設的な批判を提供して、ニュースが公正かつ正確に報道されているのかを、チェックすることを目標に設立されたものです。

 フェアは徹底したデータ分析を行って、他のメディア・ウォッチドッグとは一線を画しました。例を挙げると、ダイアナ元妃の過熱報道に警鐘を鳴らした時は、ジョン・レノンエルビス・プレスリー、グレース王妃ら有名人が、死後五週間に夜のニュースで取り上げられた回数を調べ、ダイアナ報道がこの三人に関わる報道時間を合計したものの二倍近いことをまとめ上げました。

 他にも、フェアが発行する雑誌「エキストラ」の92年7・8月号の中で、ソニーがコロンビア・ピクチャーズを買収した際の報道は、日本の経済進出を、第二次大戦の再来のような敵対心を煽るような報道だったと分析。相手がイギリスやフランス・カナダだったら、同様の買収があったとしてもこうした報道はなされなかったのではないか、と、日本に対する差別意識を問題視しました。

 フェアはこうした不正報道の背景には、ニュースの送り手が一部の層に偏っている、と分析しています。

・検閲プロジェクト~ニュースを「検閲」する~

 他にも、カリフォルニア州立ソノマ大学のピーター・フィリップス教授が率いた、検閲プロジェクトなるものもあります。検閲プロジェクトはその名とは裏腹に、ニュースを検閲する活動よりも、既存のニュースとは異なる基準から埋もれたニュースを掘り起こすとともに、多様なメディアから情報を得ることの重要性を訴える活動を重視しています

 検閲プロジェクトは、知る必要があるにもかかわらずほとんど報道されていない「検閲ニュース」を、一般から公募してメンバーが審査して、最終的に残った、重要度に対して報道頻度の低いものをランク付けして、報告書としてまとめて一般人に向けて出版しています。

 例えば、99年の検閲ニュースベスト3は、一位が「ビジネスという名のもとに石油会社を始めとする多国籍企業は、各国政府との関係を強化するため、残虐な人権侵害の現状を見て見ぬふりをしている」。二位がバイアグラに代表される、利益になる薬品のみが次々と開発され、貧しい人々を助けるための薬がおざなりにされている」。三位が「米がん協会は一般から癌の治療開発にと、莫大な寄付金を得ているが、大半が研究ではなく役員の報酬などに使われている」、といった感じです。

 ちなみにこうした検閲ニュースは、オルタナティブメディアで発信されたものが多数を占めています。オルタナティブメディアとはメインストリームメディアとは対の、「伝統的な価値に変わる」「もう一つの」という意味のメディアで、主流とは異なった「リベラルな」視点を提供するのが特徴です。メインストリームメディアの対のもの、と覚えてくれればいいです。

 また、検閲プロジェクトでは検閲ニュースとは別の、「ジャンクフードニュース」もランク付けしています。ジャンクフードニュースは検閲ニュースの真逆のもので、一般的には重要とはされていないにもかかわらず、最も頻繁に報道されるニュースの事を、無駄な食べ物という意味の、ジャンクフードにあてたニュースの事です

 例を挙げますと、99年に一位となったのはホモセクシャルに対する政治家の失言。二位はポケモン、四位はミレニアムフィーバー、6位はスターウォーズの最新作、といった感じです。

 このようなジャンクフードニュース増加の背景には、メディアの拝金主義が関わっており、調査報道のような長期調査のためのお金がかからない上に、少ないスタッフで対応できる、と分析しています

 ジャンクフードニュースをまとめた報告書では、メディアの利益ばかりが優先されて、国民に対する責任を果たしていないことを、問題視しています。

・パブリックアクセス~市民が扱うことができるテレビ局~

 メディア・ウォッチドッグは、情報の受け手の視点から行われているメディアリテラシー活動です。これだけでなく、送り手の視点からのメディアリテラシー活動もアメリカにはあります。その一つが、パブリックアクセスと呼ばれるものです。

 パブリックアクセスとは、自治体とケーブル会社の契約によって成り立つ、市民に開放されたチャンネルの事です。簡単に言ってしまえば、市民の誰もが手軽に扱えるテレビ局、ですね。パブリックアクセスの特徴は、誰もが自由に機材を使って、情報を発信できるという事です。テレビ局なので、カメラやマイクといった撮影機材が、その地域の住民であればだれでも無料で借りることができ、一般市民がテレビ番組を作ることを可能にしています。

 パブリックアクセスもまた、メディア・ウォッチドッグ同様に、全米に展開しているものです。興味深いのは、様々な理由からパブリックアクセスを重要視する地域や人がたくさん存在している事です。その、様々な理由の例を挙げますと、

『パブリックアクセスはマスメディアの独占を回避する』

『アメリカ人の中では電波は公共のものだという意識が強く、メディアに自分達の声が反映されていないと感じる市民は少なくない。そうした人たちの受け皿として非常に有意義だ』

『視聴者が批判的でないからマスコミはますます強大になる。テレビは何も特殊なものではなくて、実は誰にでも簡単に作れるという事を、パブリックアクセスで広く知らせたい』

などなど。

 現在はインターネットの発達により、パブリックアクセスを使わなくても情報を発信することが可能になっています。しかしながら、パブリックアクセスの大きな特徴は、「放送機器が無料で使える、市民のための公共放送」だということです。「公共性」という言葉の正しい意味から考えると、パブリックアクセスこそが真の公共放送と言えるのかもしれません。

 こうしたパブリックアクセスという名の「土台」があったからこそ、特にアメリカでは、ネットで自分達の意見を言う風潮が強くなったのかもしれません。

・総括~過去からわかる今の姿~

 以上、アメリカでの民間メディアリテラシー活動をご紹介しました。今回ご紹介したものは、アメリカの民間メディアリテラシー活動のいくつかにすぎません。中身等より詳しく知りたい方は、こちらの書籍(メディア・リテラシー~世界の現場から)をご拝読くださいませ。

 今回の動画で取り上げたような、民間によるメディアリテラシー啓蒙活動があったからこそ、今日のアメリカではメディアリテラシーが根付き、結果、2016年の大統領選挙のような、報道に惑わされないで自分達の頭で考えて、トランプ大統領を誕生させることができたのです。今回取り上げた事例は20年近く前に行われていたことですが、こうした活動を経てメディアリテラシーを養ったアメリカの現役世代が、報道に惑わされないで自分達の頭で考えて、政治を決めることができているのです。

 メディア教育の第一人者であるレン・マスターマンは、自身が提唱したメディア教育の18の原則の中で、こんなことを述べています。

メディアリテラシーは多くの人が力をつけて、社会の民主主義構造を強化するために重要なものだ』

『民主的な制度や真の参加民主主義の確立は、どれだけ多くの人が主体性を持ち、メディアの送り手に必要に応じて変化を迫り、合理的な選択をし、メディアに積極的に関わることで、効果的にコミュニケーションを図ることができるかにかかっている』

と述べています。これを体現しているのが、アメリカだという事ですね。

 また、カナダのメディアリテラシー研究の第一人者ジョン・プンジャンテは、メディアリテラシーの成功の秘訣として、草の根の動きからカリキュラムへの導入、教員訓練や教材の充実、教師・親・研究者・メディア関係者との協力関係、がカギとなると述べています。

 この草の根からの動きの代表的なものが、チルドレンズ・エクスプレスだったり、メディア・ウォッチドッグだったり、パブリックアクセスだったりするというわけです。そしてこうした草の根運動の時点で、教師・親・研究者・メディア関係者との協力関係が生まれていたから、イギリスやカナダに遅れながらもすんなりとメディア教育を取り組むことができ、今日に至っているというわけなのです。

 その国の今を知りたいのならその国の過去を知るのがいい、とか言われたりすると思いますが、アメリカの今を知るにはアメリカの過去を知るのがいいという事です。その過去を知るための材料の一つが、メディアリテラシーだという事です。

 こうして考えてみると、メディアリテラシーは意外と馬鹿にはできないものだというのが、ご理解いただけるのではないでしょうか?ご理解いただけたら幸いです。

 こんなところで今回の動画を終わりにしたいと思います。

 ご視聴ありがとうございました!